根分岐部病変は抜歯の理由にならない ― 分岐部のある大臼歯は何年もつのか、度数別に何をするか

大臼歯の根分岐部を示したイラストと歯周プローブ

根分岐部病変が見つかると、「この歯は長くない」と考えて早めに抜歯やインプラントを勧める先生は少なくありません。しかし文献を並べると、分岐部病変のある大臼歯は、きちんと治療してメインテナンスを続ければ、思われているよりずっと長くもちます。EFPのガイドラインは「根分岐部病変は抜歯の理由にならない」と明記しています。この記事では、その根拠と、度数別に何を選ぶかを整理します。

分岐部病変があると、歯の喪失リスクはどれくらい上がるか

分岐部病変のある大臼歯とない大臼歯を比べたシステマティックレビュー(Nibali 2016、21研究)では、歯の喪失リスクは10〜15年の追跡で約2.2倍でした。10年までの研究では1.46倍で、統計的には有意ではありません。II度、III度と進むにつれてリスクは段階的に上がります。

大事なのは、これが「相対リスク」だという点です。2倍と聞くと大きく感じますが、もとの喪失率が低ければ、2倍になっても大半の歯は残ります。実際、5年以上追跡した22論文のレビュー(Huynh-Ba 2009)では、治療法別の生存率は次のとおりでした。

治療法生存率追跡期間
非外科治療90%超5〜9年
フラップ手術など43.1〜96%5〜53年
トンネリング42.9〜92.9%5〜8年
歯根切除・分割62〜100%5〜13年
GTR83.3〜100%5〜12年

このレビューは、I度の分岐部病変は非外科のデブライドメントで管理できる、と結論しています。合併症として目立つのは、トンネリング後の分岐部う蝕と、歯根切除後の歯根破折・歯内療法の失敗でした。ただし、この表は性質の違う観察研究の幅を並べたもので、治療法どうしを直接比べたものではありません。重い症例ほど侵襲の大きい術式が選ばれている、という偏りも含まれています。

II度には再生療法:フラップ単独より明らかに良い

EFPガイドラインの根拠になったシステマティックレビュー(Jepsen 2020、20 RCT・575名・787欠損)では、II度の分岐部病変に対する再生療法は、フラップ単独に比べて次の結果でした。

  • 分岐部の改善(閉鎖またはI度への改善)が得られるオッズは約21倍
  • 水平的アタッチメントゲインが1.6mm、垂直的アタッチメントゲインが1.3mm、ポケット減少が1.3mm大きい
  • 完全閉鎖は0〜60%(10試験)、I度への改善は29〜100%(6試験)

完全に閉じる保証はありませんが、大半の症例でI度まで改善が見込めます。I度になれば、非外科で管理できる領域に戻ります。

これを受けたEFPガイドラインの推奨は次のとおりです。

  • II度・III度の分岐部病変と残存ポケットのある大臼歯には歯周治療を行う。分岐部病変は抜歯の理由にならない(Grade A)
  • 下顎のII度、上顎頬側のII度には再生療法
  • 材料はエムドゲイン単独、または骨由来の補填材(吸収性膜の併用は問わない)
  • III度、上顎の隣接面II度、複数のII度には、非外科治療・フラップ手術・トンネリング・歯根分割・歯根切除を検討してよい(特定の術式を推す根拠はない)

歯根切除の成績は、術式より患者で決まる

歯根切除の長期成績は、報告によって大きく割れます。一般開業医1名が治療した90歯を平均14.7年追った研究(Derks 2018)では、10年の累積生存率は90.6%、生存期間の中央値は20年でした。一方、大学病院の研究(El Sayed 2020)では、5年で69%、15年で48%まで下がっています。後者で生存を左右していたのは、歯や術者の要因ではなく、メインテナンスへの通院、喫煙、保険の種類といった患者側の要因でした。

同じ術式でも、誰に行うかで10年後が変わります。歯根切除は、メインテナンスに通い続けられる患者を選んで行う術式だと言えます。

抜いてインプラントにするほうが得か

分岐部病変のある大臼歯を保存する場合と、抜歯してインプラントに置き換える場合を比べた費用対効果のモデル研究(Schwendicke 2014、ドイツ)では、保存した歯のほうがインプラントより長くもち、費用も低いという結果でした。例外は歯根切除を行う場合だけです。ドイツの費用構造に基づくモデルなので日本にそのまま当てはめることはできませんが、「分岐部があるから早めにインプラント」という判断を支持するデータではありません。

文献が言えないこと

再生療法のRCTは、分岐部の閉鎖やアタッチメントゲインを見ていて、歯の喪失は報告していません。II度がI度に改善したことが、20年後の歯の保存につながるかどうかは、直接には示されていません。上の生存率の多くは、専門施設でメインテナンスを受けている患者のデータです。メインテナンスに来ない患者には当てはまりません。III度に対してどの術式が優れているかを示す根拠もありません。ここから先は術者が決めることになります。以下は私の決め方です。

私の決め方1:I度は非外科で管理する

I度の分岐部病変は、基本治療とメインテナンスで管理します。外科の対象にはしません。文献でも、非外科治療の生存率は5〜9年で90%を超えています。分岐部にプローブが入るというだけで、治療方針を変える必要はありません。

私の決め方2:II度は再生療法を第一に考える

下顎のII度と上顎頬側のII度は、再生療法を第一に考えます。材料はエムドゲインが基本です。骨縁下欠損では骨補填材と膜を併用することが多いのですが、分岐部は入口が狭く、補填材が入らないことがよくあります。その場合はエムドゲイン単独で行います。

上顎の隣接面に開口したII度は、器具の到達も再生の成績も厳しくなります。再生療法後の長期研究でも、上顎大臼歯は成績が落ちる部位として繰り返し挙がっています(エムドゲインの長期成績の記事参照)。ここは再生療法を無理に勧めず、III度と同じ考え方で判断します。

私の決め方3:III度は「妥協的に何を選ぶか」

III度は再生療法の適応外です。選択肢は、アクセスフラップで清掃できる状態をつくる、歯根分割やヘミセクションで分岐部そのものをなくす、抜歯する、のいずれかで、どれも妥協的な治療です。

何を選ぶかは、患者さんがメインテナンスに通い続けられるか、残す根の骨支持と歯内療法の状態、その歯が補綴設計のなかでどれだけ重要か、で決めます。歯根切除の成績が患者要因で大きく割れることは、上で見たとおりです。トンネリングは分岐部う蝕のリスクが高いので、私は基本的に選びません。

分岐部のある歯こそ、メインテナンスの間隔を詰める

分岐部病変のある歯は、治療後もリスクの高い部位として扱います。ステージIII以上の患者さんは毎月、5mmを超えるポケットが残った場合も毎月、というのが当院の基準です(新分類の臨床活用の記事参照)。分岐部を抱えた大臼歯を長くもたせられるかどうかは、術式よりも、その後の管理で決まります。

まとめ

  • 分岐部病変があると歯の喪失リスクは約2倍になるが、治療とメインテナンスを続ければ大半は残る
  • EFPガイドラインは「分岐部病変は抜歯の理由にならない」と明記している(Grade A)
  • I度は非外科で管理できる(5〜9年の生存率90%超)
  • II度(下顎、上顎頬側)は再生療法。フラップ単独より改善のオッズが約21倍、大半がI度まで改善する
  • 歯根切除の成績は10年90.6%から15年48%まで割れる。差をつくるのは通院と喫煙
  • 保存はインプラントへの置換より長くもち、費用も低いというモデル結果がある
  • III度は妥協的治療。患者がメインテナンスに通えるかで術式を選ぶ

参考文献:Nibali L et al. J Clin Periodontol 2016;43:156-166/Huynh-Ba G et al. J Clin Periodontol 2009;36:164-176(PMID 19207893)/Jepsen S et al. J Clin Periodontol 2020;47(S22):352-374/Sanz M et al. EFP S3 guideline. J Clin Periodontol 2020;47(S22):4-60(PMID 32383274)/Derks H et al. Clin Oral Investig 2018;22:1327-1335/El Sayed N et al. Clin Oral Investig 2020;24:2341-2349/Schwendicke F et al. J Clin Periodontol 2014;41:1090-1097(PMID 25255893)


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この記事を書いた人

歯周病専門医(日本歯周病学会認定・2014年)。明海大学歯学部卒業後、同大学歯周病学分野で臨床・教育に携わり、2019年に米国NSU歯周病学レジデントプログラムで研修。現在は福嶋歯科医院(東京都多摩市)院長・医療法人社団Fortune Arch理事長として、歯周外科とインプラント治療を専門に、これまでに1,000例を超える外科症例を手がける。歯科医師には「手を動かして身につける」臨床技術を、患者さんには歯周病を防ぐセルフケアを発信している。

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