喫煙者と糖尿病患者に歯周外科をしてよいか ― 成績はどれだけ落ちるのか、HbA1cの線はどこか

タバコと血糖測定器の間に歯周プローブを置いた、喫煙と糖尿病が歯周外科に与える影響を表すイラスト

喫煙者や糖尿病の患者さんに歯周外科を勧めてよいのか。「喫煙者は治らないからやらない」「糖尿病は感染が怖いからやらない」と一律に避けている先生もいれば、気にせず行っている先生もいます。文献を並べると、喫煙の影響は思われているより小さく、糖尿病は「コントロールされているかどうか」で話がまったく変わります。

喫煙で成績はどれだけ落ちるか

非外科治療については、2つのシステマティックレビューがあります。Labriolaら(2005)では、初診時5mm以上のポケットで、ポケットの減少は非喫煙者のほうが0.43mm大きいという結果でした。全部位で見ると差は0.13mmです。Changら(2021、17研究)でも、喫煙者のポケット減少は0.33mm、アタッチメントゲインは0.20mm小さいという結果でした。

フラップ手術でも傾向は同じです。Kotsakisら(2015、8研究363名)のメタ解析では、非喫煙者のほうがポケット減少で0.39mm、アタッチメントゲインで0.35mm上回りました。喫煙者でも臨床的な改善は得られています。

つまり「喫煙者は治らない」のではなく、「効果が0.3〜0.4mm小さくなる」というのが正確な表現です。

大きな差が報告されているのは再生療法です。骨縁下欠損にGTRを行った古い後ろ向き研究(Tonetti 1995)では、アタッチメントゲインは非喫煙者5.2mmに対して喫煙者2.1mmでした。ただしこれは1990年代の研究1件の数字で、現在のエムドゲインや低侵襲フラップにそのまま当てはめることはできません。

禁煙すればリスクは戻る

長期で見ると、喫煙の影響ははっきりします。縦断研究のメタ解析(Souto 2019)では、歯の喪失リスクは現在の喫煙者で非喫煙者の2.6倍でした。一方、元喫煙者は1.15倍で、非喫煙者と有意差がありません。ただし同じ論文は、リスクが非喫煙者の水準に戻るまでに10〜20年の禁煙が必要だとも述べています。

歯周炎の発症と進行についても同じです(Leite 2019)。禁煙した人のリスクは非喫煙者と変わらず、吸い続けた人は禁煙した人より約80%リスクが高くなります。

EFPガイドラインは、歯周治療を受ける患者への禁煙介入を強く推奨しています(Grade A)。ただし同じガイドラインは、歯科での禁煙介入の成功率を1〜2年で4〜30%と記載しています。高くはありません。

糖尿病は「コントロールされているか」で分かれる

EFPと国際糖尿病連合(IDF)の合同ワークショップ(Sanz 2018)は、歯科医療従事者向けに次のように述べています。

  • 糖尿病のコントロール状態にかかわらず、非外科の歯周治療は行うべきである。血糖コントロールの改善に役立つ可能性があるからである
  • 糖尿病のコントロールが許容できる水準にない患者には、歯周外科とインプラント治療は適応にならない
  • コントロール良好な患者では、外科の結果は糖尿病でない患者と同等である

実際、コントロール良好な2型糖尿病患者を対象にした小規模なRCT(Cimões 2022、13名)では、エムドゲインを使った側のアタッチメントゲインは3.31mm、フラップ単独の側は1.61mmで、糖尿病でない患者の試験と同じ傾向の結果が出ています。

HbA1cの線はどこに引くか

問題は「許容できるコントロール」が何%か、です。EFP/IDFは数値を示していません。手がかりになる数字を並べます。

出典数値もとの目的
2018年新分類(グレード)7.0%以上でグレードC進行リスクの分類。手術の基準ではない
日本歯周病学会ガイドライン第2版(2014)6.9%前後を参考値侵襲の低い歯周外科。心臓カテーテル治療の研究からの外挿
英国 周術期ケアセンター(2022)8.5%未満全身の待機手術。超える場合は糖尿病チームに紹介

歯周外科の可否を決めるHbA1cの線を直接検証した研究は、見つかりませんでした。どの数字も、別の目的の基準か、別の領域からの外挿です。7%前後までなら通常どおり、8.5%を超えるなら延期して内科に相談、その間は個別に判断、というのが、今ある数字から引ける線です。

歯周治療で血糖は下がる

逆向きの効果もあります。コクランレビュー(Simpson 2022、35研究3,249名)では、歯周治療によってHbA1cは3〜4か月で0.43%、6か月で0.30%下がりました。エビデンスの確実性は中等度です。日本糖尿病学会の診療ガイドライン2024も、2型糖尿病患者への歯周治療を推奨グレードAとしています。

HbA1cが高くて外科ができない患者さんにも、非外科治療は行う理由があります。歯周治療そのものが血糖コントロールを助け、外科ができる状態に近づけるからです。

文献が言えないこと

「1日何本までなら手術してよいか」「術前に何週間禁煙すればよいか」を示した歯周外科の研究は見つかりませんでした。新分類の「1日10本」は進行リスクを分ける線で、手術の基準ではありません。禁煙が外科や再生療法の成績を改善するという直接のデータもありません。禁煙の効果が示されているのは非外科治療と、長期の歯の喪失です。糖尿病患者の再生療法のデータは、コントロール良好な少人数に限られます。コントロール不良の患者に外科を行った成績は、実質的に存在しません。

私の考え方1:喫煙者には数字で伝える

禁煙指導は常に行っています。正直に言えば、禁煙させるのは難しい。ガイドラインが書いている成功率4〜30%は、実感に合っています。

それでも伝え方はあります。新分類では、1日10本以上の喫煙はそれだけでグレードをCに引き上げます。「タバコがあなたの歯周病のグレードを1つ上げています」と数字で示せるのは、新分類の実用的な利点です(新分類の臨床活用の記事参照)。加えて、「吸い続ければ歯を失うリスクは2.6倍、やめれば吸わない人と変わらない水準まで戻る」というデータは、禁煙の動機づけにそのまま使えます。

喫煙を理由に外科を断ることはしていません。効果が0.3〜0.4mm小さくなることを説明したうえで、深いポケットを残すリスクと比べて判断します。

私の考え方2:HbA1cが高ければ外科には進まない

深いポケットが残っていても、HbA1cが高い患者さんには外科を勧めません(SRPで残ったポケットをどうするかの記事参照)。コントロール不良の糖尿病では術後感染のリスクが上がり、外科の成績を裏づけるデータもないからです。

当院ではHbA1cを院内で測定できる機器を導入しました。患者さんの自己申告や数か月前の検査値ではなく、その時点の数値で判断できます。血糖コントロールそのものへの介入は、まだこれからの課題です。

HbA1cが高い患者さんでも、非外科治療は通常どおり行います。歯周治療で血糖が下がれば、外科を検討できる状態に近づきます。

まとめ

  • 喫煙による成績の低下は、非外科でもフラップ手術でも平均0.3〜0.4mm。喫煙者でも改善は得られる
  • 歯の喪失リスクは喫煙者で2.6倍。禁煙すれば非喫煙者と差がなくなるが、戻るまで10〜20年かかる
  • 歯科での禁煙介入の成功率は4〜30%。それでもガイドラインは強く推奨している
  • 糖尿病はコントロール良好なら外科の結果は非糖尿病と同等。コントロール不良なら外科は適応外
  • 歯周外科のHbA1cの線を検証した研究はない。手がかりは6.9%前後(日本歯周病学会第2版)、7.0%(新分類)、8.5%(英国の待機手術)
  • 歯周治療でHbA1cは3〜4か月で0.43%下がる。外科ができない患者にも非外科治療を行う理由になる

参考文献:Labriola A et al. Periodontol 2000 2005;37:124-137/Chang J et al. J Clin Periodontol 2021(PMID 33022758)/Kotsakis GA et al. J Periodontol 2015;86:254-263/Tonetti MS et al. J Clin Periodontol 1995(PMID 7790529)/Souto MLS et al. BMC Oral Health 2019;19:245/Leite FRM et al. Nicotine Tob Res 2019;21:1600-1608/Sanz M et al. EFP S3 guideline. J Clin Periodontol 2020;47(S22):4-60/Sanz M et al. EFP/IDF joint workshop. J Clin Periodontol 2018;45:138-149/Cimões R et al. Clin Oral Investig 2022;26:2479-2489/Tonetti MS, Greenwell H, Kornman KS. J Periodontol 2018;89(S1):S159-S172/日本歯周病学会 糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版 2014/Centre for Perioperative Care. Perioperative care for people with diabetes 2022/Simpson TC et al. Cochrane Database Syst Rev 2022;CD004714/日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2024


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この記事を書いた人

歯周病専門医(日本歯周病学会認定・2014年)。明海大学歯学部卒業後、同大学歯周病学分野で臨床・教育に携わり、2019年に米国NSU歯周病学レジデントプログラムで研修。現在は福嶋歯科医院(東京都多摩市)院長・医療法人社団Fortune Arch理事長として、歯周外科とインプラント治療を専門に、これまでに1,000例を超える外科症例を手がける。歯科医師には「手を動かして身につける」臨床技術を、患者さんには歯周病を防ぐセルフケアを発信している。

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