小規模企業共済の受け取り方と税金、元本割れする条件 ― 歯科開業医のための小規模企業共済【後編】

濃紺の背景に硬貨の入った封筒と歯科用ミラーを描いたイラスト

前編では、小規模企業共済に入れる条件と、医療法人化すると院長は入れなくなることを書きました。後編では、お金を受け取るときの話をまとめます。

小規模企業共済は「入るとき」より「出るとき」で差がつく制度です。受け取る理由によって金額が変わり、受け取り方によって税金が変わります。自分の都合で解約すると、元本割れすることもあります。

後編の結論

  • 閉院や子への承継で受け取る「共済金A」が最も多い。医療法人化の「準共済金」はおおむね掛金の合計
  • 一括で受け取ると退職所得になり、税金が大きく軽くなる。月7万円×30年なら、税金は受取額の約6.4%
  • 自分の都合で解約すると、20年未満は元本割れする。掛金の減額も不利
  • iDeCoと両方使うなら、一時金を受け取る時期を10年以上離す
目次

4つの受け取り方:歯科医院ではどれになるか

共済金には、共済金A、共済金B、準共済金、解約手当金の4種類があります。歯科医院の場面に置き換えると次のとおりです。

種類受け取れる場面歯科医院での具体例
共済金A個人事業の廃業、本人の死亡、配偶者や子への事業の全部譲渡閉院した、歯科医師の子に医院を継がせた
共済金B65歳以上で180か月(15年)以上払い込んだ(老齢給付)65歳を過ぎて、診療を続けながら受け取る
準共済金法人成りした結果、加入資格がなくなった医療法人を設立した
解約手当金自分の都合で解約した、掛金を12か月以上滞納した資金繰りのために解約した

金額の差を、払い込んだ掛金の合計を100%として比べたのが図6です。

5年 10年 15年 20年 30年 0% 50% 100% 104 108 112 116 121 100 100 100 100 106 80 85 92 100 105 共済金A(閉院・子への承継) 準共済金(医療法人化) 解約手当金(自分の都合で解約) 図6 受け取る理由で、戻る額が変わる 払い込んだ掛金の合計を100%(点線)としたときの受取額 出典:中小機構「制度のしおり(令和8年4月改訂版)」月1万円の受取額例、「解約手当金の算定方法」をもとに計算
閉院・承継の共済金Aがいちばん多く、自分の都合での解約は20年未満だと元本割れする

注目してほしいのは、子に医院を継がせる場合も共済金Aになる点です。2016年4月の改正で、配偶者や子への事業の全部譲渡は準共済金から共済金Aに引き上げられました。2代目の歯科医師に承継する予定がある先生には、うれしい改正です。

なお、共済金AとBは6か月以上、準共済金と解約手当金は12か月以上払い込んでいないと受け取れず、掛け捨てになります。

受取額の目安(掛金月1万円の場合)

中小機構の公式資料に載っている受取額です。月3万円なら3倍、月7万円なら7倍が目安になります。

払込年数掛金の合計共済金A共済金B準共済金
5年60万円621,400円614,600円600,000円
10年120万円1,290,600円1,260,800円1,200,000円
15年180万円2,011,000円1,940,400円1,800,000円
20年240万円2,786,400円2,658,800円2,400,000円
30年360万円4,348,000円4,211,800円3,832,740円

受け取るときの税金:一括なら「退職所得」で軽い

閉院や引退で一括で受け取る共済金は、税法上「退職所得」として扱われます。退職所得には大きな控除があり、さらに控除後の金額の2分の1だけが課税対象になります。

払込年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 年数(最低80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(年数 − 20年)

月7万円を30年払い込んで、閉院時に一括で受け取った場合の流れを図にしました。

受け取る 共済金A 退職所得控除 (30年) 控除後の 2分の1だけ課税 課税される 退職所得 所得税・ 住民税 手取り 3,044 −1,500 −772 772 約193 約2,851 図8 30年積み立てて一括で受け取ると、税金は約6.4% 月7万円×30年、閉院時に共済金A 約3,044万円を一括で受け取る場合(単位:万円) 鳴海の試算:共済金は公式の月1万円例×7。所得税は復興特別所得税込み、住民税10%(均等割除く)。実際の税額は税理士に確認を
約3,044万円を受け取って、税金は約193万円

払い込んでいる30年間、課税所得1,000万円が続けば、節税額は年36.7万円 × 30年で約1,100万円です。受け取るときの税金は約193万円です。入口で大きく税金を減らし、出口では軽い税率で受け取れる。 これが小規模企業共済のいちばんの価値です。

60歳以上で共済金が300万円以上なら、10年または15年の分割で受け取ることもできます。分割は「公的年金等の雑所得」になります。一括と分割の併用もでき、その場合は共済金330万円以上が条件です。

一方、自分の都合で解約したときの解約手当金は「一時所得」です。退職所得のような優遇はなく、この点でも解約は不利です。

注意点1:20年未満で自分から解約すると元本割れする

解約手当金は、払い込んだ月数で決まる支給率をかけて計算します。

1年 7年 20年 30年 0% 50% 80% 100% 100%=掛金の合計 12か月未満は掛け捨て 80% 80.5〜99.75% 100%以上 図7 自己都合の解約は、20年未満なら元本割れ 解約手当金の支給率(払い込んだ掛金の合計に対する割合) 出典:中小機構「解約手当金の算定方法」(平成16年4月以降の掛金)をもとに作成
12か月未満は掛け捨て、20年未満は掛金の合計を下回る

たとえば月1万円を15年払い込んで解約すると、掛金の合計180万円に対して受け取れるのは166.5万円です。生活費や運転資金とは分けて、20年以上続けられる額にしてください。資金が足りなくなったときは、解約より先に前編で書いた「契約者貸付制度」を検討するのが基本です。

注意点2:掛金を減額すると不利になる

掛金は月1回まで増額・減額できますが、減額した部分は運用が止まり、受取額の計算でも不利に扱われます。減額してから解約すると、20年を超えていても元本割れすることがあります。

おすすめは、無理のない額で始めて、所得が安定したら増額する順番です。増額した部分の払込月数は、増額した時点から数え始めます。

注意点3:予定利率は1.0%。増やす制度ではない

予定利率は1.0%(令和5年9月時点)です。運用でお金を大きく増やす制度ではありません。価値の中心は、払い込むときと受け取るときの税金の軽さです。投資で増やしたいお金は、NISAなど別の手段で考えてください。

注意点4:iDeCoの一時金と受け取る時期をずらす

iDeCoと小規模企業共済の両方を一時金で受け取る場合、時期が近いと退職所得控除が調整され、税金が増えることがあります。2025年度の税制改正で、iDeCoの一時金を先に受け取ったときの調整期間が5年から10年に延びました。2026年1月以降に受け取る退職一時金から適用されています。両方に入る先生は、受け取る順番と間隔を税理士と相談しておくと安心です。

iDeCo・経営セーフティ共済との違い

開業医がよく比べる3つの制度です。性格が違うので、どれか1つではなく組み合わせて使います。

項目小規模企業共済iDeCo経営セーフティ共済
目的院長の退職金老後の年金取引先の倒産への備え
掛金の上限月7万円月6.8万円(2027年1月の引落分から月7.5万円)月20万円
掛金の税金全額所得控除全額所得控除個人事業は必要経費
受け取れる時期閉院・65歳以降など原則60歳以降解約時など
事業資金の借入れできるできないできる
加入できる時期開業直後から開業直後から事業を1年以上続けてから
医療法人化した後院長は続けられない続けられる医療法人は加入できない

※iDeCoの上限は、国民年金基金の掛金・国民年金付加保険料との合算です。

経営セーフティ共済は「節税」ではなく「税金の先送り」です。加入できる人・できない人と、損得を分ける解約のタイミングは経営セーフティ共済の記事で詳しく解説しています。

現在 2027年1月の 引落分から 小規模企業共済 84 iDeCo 81.6 計 165.6 小規模企業共済 84 iDeCo 90 計 174 図9 iDeCoと両方満額なら、控除は年165.6万円 個人開業の先生の場合(単位:万円) 出典:中小機構、りそな銀行「iDeCoの法改正」。iDeCoは国民年金基金・付加保険料との合算上限
個人開業の先生が両方を満額で使ったときの所得控除

まとめ:小規模企業共済チェックリスト

  • 医療法人の理事長になったら入れない。個人開業の間に入る(前編)
  • 個人開業で、正社員が5人以下か。パート・家族は数えない(前編)
  • 20年以上続けられる額から始め、減額ではなく増額で調整する
  • 資金が足りないときは、解約より先に契約者貸付を検討する
  • 医療法人化の予定が1年以内なら見送る。それ以降なら入って損は小さい
  • 子への承継も共済金Aになる
  • 受け取るなら一括(退職所得)か分割(雑所得)かを、60歳が近づいたら税理士と検討する
  • iDeCoと両方使うなら、一時金を受け取る時期を10年以上離す計画を立てる

参考資料(2026年10月4日確認):中小企業基盤整備機構「小規模企業共済制度 制度のしおり(令和8年4月改訂版)」/中小機構「共済金等の請求事由」「解約手当金の算定方法」各ページ/りそな銀行「iDeCoの法改正」/国税庁 退職所得の計算方法。制度の内容は改正されることがあります。加入前に中小機構の最新情報をご確認ください。


自分の場合の受取額を試算しておきましょう
中小機構の公式サイトでは、掛金と加入年数から受取額と節税額のシミュレーションができます。加入窓口とオンライン申込みの案内もここから確認できます。

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この記事を書いた人

歯周病専門医(日本歯周病学会認定・2014年)。明海大学歯学部卒業後、同大学歯周病学分野で臨床・教育に携わり、2019年に米国NSU歯周病学レジデントプログラムで研修。現在は福嶋歯科医院(東京都多摩市)院長・医療法人社団Fortune Arch理事長として、歯周外科とインプラント治療を専門に、これまでに1,000例を超える外科症例を手がける。歯科医師には「手を動かして身につける」臨床技術を、患者さんには歯周病を防ぐセルフケアを発信している。

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