歯周外科の術後管理 ― 何が起きて、何を出して、いつ抜糸するか

縫合糸とカレンダーで歯周外科の術後管理と抜糸の時期を表したイラスト

歯周外科を始めた先生から受ける質問は、切開や縫合の手技よりも、術後のことが意外に多い。抗菌薬は出すのか、いつ抜糸するのか、いつからブラシを当てさせるのか、電話がかかってきたらどうするのか。この記事では、術後に何が起きるかを文献で整理したうえで、私が実際に行っている術後管理と、これまでに経験した合併症を書きます。

目次

術後に何が起きるか:腫れは6割、出血は4分の1、感染は2%

歯周外科を受けた155名(切除40、再生28、歯肉歯槽粘膜87)を前向きに追った研究では、術後7日以内に腫脹が61.9%、食事の不自由が67.7%、出血が25.8%、話しにくさが28.4%の患者に起きていました。いずれも軽度で、7日以内に収まっています。痛みのVASは平均2.96(0〜9)で、著者らは「歯周外科は安全で、術後の不快は限られた期間にとどまる」と結論しています。痛みを強めていたのは縦切開と口蓋側へのフラップの延長、生活の質を下げていたのは3歯を超えるフラップと、歯周パックの使用でした。

術後感染はまれです。よく引用される報告(Powell 2005、1,053件)では2.09%で、抗菌薬を出した群と出さなかった群で感染率に差はありませんでした。大学病院の後ろ向き研究では、知覚過敏5.7%、強い痛み4.1%、術後出血3.5%という頻度が報告されています。

つまり、腫れと食べにくさはほぼ全員に起きるが1週間で収まり、本当の合併症は数%、と患者さんに伝えてよい数字です。

術後の抗菌薬に根拠はあるか

通常のフラップ手術で術後抗菌薬が感染を減らすという根拠はありません。感染率2%という低さがその理由です。

再生療法についてはシステマティックレビューがあります(Nibali 2022、105 RCT)。抗菌薬あり・なしを直接比べた試験では有意差がなく、試験をまたいだ解析で骨縁下欠損のポケット減少が0.91mm、骨獲得が1.08mm大きい傾向が出たにとどまります。著者らは「弱い間接的な根拠」と評価し、抗菌薬の適正使用の観点から、併用を正当化するのは疑問だと結論しています。分岐部では利益はありませんでした。

洗口剤は術後1週間の代用になる

術後のクロルヘキシジン洗口についてのシステマティックレビュー(Solderer 2019)では、プラセボに比べて術後1週のプラークが29〜86%、出血が最大73%減っていました。ポケットの減少への上乗せはありません。位置づけは「ブラッシングができない期間の化学的なプラークコントロール」で、それ以上でもそれ以下でもありません。海外の0.12〜0.2%製剤のデータで、日本で使える濃度はこれより低い点は割り引いて読む必要があります。

文献が言えないこと

抜糸の時期、ブラッシング再開の時期、術後の来院間隔を比べた質の高い試験はほとんどありません。再生療法の術後プロトコル(数週間の機械的清掃の回避、毎週の専門的清掃)は、RCTの「手順」として書かれているだけで、比較で検証されたものではありません。合併症の頻度も大学病院のデータで、開業医の外来でどうかは分かりません。ここから先は術者が決めることになります。以下は私のやり方です。

私の決め方1:投薬は抗菌薬・鎮痛薬を3日分、術式で変えない

抗菌薬と鎮痛薬を3日分、含嗽剤を1本、どの術式でも同じように出しています。通常のフラップでも再生療法でも変えません。

抗菌薬については、上で見たとおり根拠は弱いことを承知しています。1,053件の歯周外科で感染は2.09%、抗菌薬の有無で差がなかったというPowellら(2005)の報告があり、再生療法でもNibaliら(2022)のシステマティックレビューは併用の正当化を疑問視しています。それでも出しているのは、感染が起きるのが2%だとしても、起きたときの患者さんの不利益が大きいからです。飲むかどうかは患者さんに任せています。「いらない」と言う患者さんにも、この数字を説明したうえで処方させてもらっています。

私の決め方2:術後2日間が山だと伝える

術後の指示で強調しているのは、喫煙、飲酒、運動を2日間控えることです。炎症のピークが術後48時間に来るからです。ここを越えれば腫れも痛みも引いていきます。冷やすのはかまいませんが、氷を直接当てて冷やしすぎないよう伝えています。

上の文献で腫れが6割に起きているとおり、腫れること自体は異常ではありません。「2日間は腫れる、それが普通」と先に言っておくと、電話が減ります。

私の決め方3:抜糸まで術部は磨かせない、抜糸は14日で統一

術部のブラッシングは、基本的に抜糸までしません。清掃するなら術後用の極軟毛ブラシだけを使うよう指導しています。それまでの代用は含嗽剤です。上のクロルヘキシジンの文献が示すとおり、術後1週間の代用としてはこれで足ります。再生療法でも同じです。

抜糸は術式にかかわらず14日後で統一しています。歯周パックは現在、どの術式でも使っていません。上の文献で歯周パックが生活の質を下げる因子として挙がっていたのは、実感と合っています。

私の決め方4:来院は1〜2日後、2週、あとは毎月

術後1〜2日以内に一度チェックし、2週間後に抜糸します。その後は1か月ごとに歯科衛生士がチェックと清掃を行います。再評価と外科の判断についてはSRPで残ったポケットをどうするかの記事に書いたとおりです。

電話が来るのは「糸が緩んだ」

術後に患者さんから連絡が来る理由で一番多いのは、糸が緩んだ、ほつれた、です。創が治るにつれて糸が緩むのは自然な経過で、慌てる必要はありません。痛みで連絡が来ることはあまりありません。止血用のシーネは現在は作っていません。出血で急患になることが、それだけ少ないということです。

私が経験した合併症と、そこから変えたこと

正直に書きます。上顎第二大臼歯の遠心で骨整形を行ったとき、事前にCTやパノラマで上顎洞の位置を把握しておらず、上顎洞を穿孔してしまい、患者さんが入院する事態になりました。それ以来、上顎臼歯部の外科では必ず上顎洞の位置を確認しています。

もう1つは、水平埋伏智歯の抜歯でタービンからのエアーが軟組織に入り、皮下気腫を起こしたことです。それからは切削に5倍速コントラを使うようにしています。

どちらも文献に書いてある合併症です。しかし自分で経験するまで、術前の確認が「手順」になっていませんでした。術後管理の記事の最後にこれを書くのは、術後のトラブルの多くは術前の確認で防げる、と伝えたいからです。

まとめ

  • 術後1週間は腫れ6割、食べにくさ7割、出血4分の1。いずれも軽度で1週間以内。感染は約2%
  • 通常のフラップに術後抗菌薬の根拠はない。再生療法でも根拠は弱い
  • クロルヘキシジン洗口は、ブラッシングできない術後1週間の代用にはなる
  • 私は抗菌薬・鎮痛薬を3日分、含嗽剤1本を術式によらず出す。根拠が弱いことは承知のうえで
  • 喫煙・飲酒・運動は2日間控える。炎症のピークは48時間
  • 術部は抜糸まで磨かせない。抜糸は14日で統一。歯周パックは使わない
  • 来院は1〜2日後、2週で抜糸、あとは毎月衛生士がチェック
  • 連絡の1位は「糸が緩んだ」。痛みと出血は少ない
  • 術後のトラブルの多くは術前の確認で防げる。上顎洞の位置、タービンのエアー

参考文献:Patient-reported outcome measures after periodontal surgery. Clin Oral Investig 2023/Powell CA et al. J Periodontol 2005;76:329-333(PMID 15857064)/Nibali L et al. Antibiotics 2022;11:8/Solderer A et al. Clin Oral Investig 2019;23:21-32/Overview of Periodontal Surgical Procedures. StatPearls, NCBI Bookshelf


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この記事を書いた人

歯周病専門医(日本歯周病学会認定・2014年)。明海大学歯学部卒業後、同大学歯周病学分野で臨床・教育に携わり、2019年に米国NSU歯周病学レジデントプログラムで研修。現在は福嶋歯科医院(東京都多摩市)院長・医療法人社団Fortune Arch理事長として、歯周外科とインプラント治療を専門に、これまでに1,000例を超える外科症例を手がける。歯科医師には「手を動かして身につける」臨床技術を、患者さんには歯周病を防ぐセルフケアを発信している。

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