エムドゲインは何年もつのか ― 10年の文献が言えること、言えないこと、そして私の外来での説明

エムドゲイン再生療法の長期成績を示す骨欠損の模式図

患者さんに「エムドゲインは何年もちますか」と聞かれたとき、私は「明言できません」と答えています。逃げているのではなく、それが文献の結論だからです。この記事では、エムドゲイン(EMD)を使った再生療法の長期成績について文献が言えることと言えないことを整理し、そのうえで私が外来でどう判断し、どう説明しているかを書きます。

目次

文献が言えること:10年までは「1年の結果がほぼ維持される」

EMD単独で最も長い無作為化比較試験は10年です。Sculeanら(2008)は38名をEMD/GTR/EMD+GTR/フラップ単独の4群で追跡し、EMD群のアタッチメント獲得は1年で3.4mm、10年で2.9mmでした。1年から10年の変化はどの群でも統計的に有意ではなく、「1年で得たものはほぼ維持される」というのがこの試験の結論です。

大学ベースの10年コホート(Petsos 2022)でも、残った歯のアタッチメント獲得は1年・10年とも中央値2.5mmで安定していました。ただし27本中5本(18.5%)が10年の間に失われています。EMD中心の別の10年コホート(De Ry 2022、41名75歯)では歯の生存率90.7%、アタッチメントレベルは8.4mmから1年で6.5mm、10年で5.9mmと、むしろ長期でさらに改善していました。

開業医ベースのデータもあります。Bröselerら(2017)は176名1,008欠損を最長10年追跡し、X線的な骨欠損の充填3.8mmが10年維持され、歯の喪失は2.6%でした。ただし深い欠損では5.7%と高く、喪失の主因は歯周病ではなく歯内的な理由でした。

文献が言えないこと:20年のEMDデータはない

20年の追跡データは存在しますが、それはePTFE膜を使ったGTRのものです(Cortellini 2017)。この試験では再生療法群の喪失歯は0本、フラップ単独群は2本で、1年から20年のアタッチメント変化は再生群が−0.1〜−0.5mm、フラップ単独群が−1.7mmでした。再生療法が長期的に歯を守る方向に働くことは示していますが、EMDそのものの20年データではありません。

つまり、EMDについて根拠をもって言えるのは「10年までは維持される」までです。「一生もつ」とも「10年で壊れる」とも言えません。

失敗と関連する因子

文献が繰り返し挙げる因子は、喫煙、プラークコントロール、メインテナンス(SPT)への参加、術後に残ったポケットの深さです。Rattanasuwanら(2017)はSPT下の89名を最長11年追跡し、歯の喪失は7.9%、2mm以上のアタッチメント喪失は38.2%に起きていて、喫煙・コンプライアンス・術後残存ポケットが喪失と有意に関連していました。De Ry(2022)でも喫煙者は歯の生存曲線が有意に不良でした。

注目したいのは残存ポケットです。術後に5mm以上のポケットが残った歯は、その後のメインテナンスで悪化しやすい。これは前回の記事で書いた「掻爬をどこまでやるか」に直結します。術中に取り切れなかったものは、術後の努力では取り返しにくいということです。

私の臨床:10年もつ歯と、数年で悪化する歯の違い

私の症例で数年で悪化した歯を振り返ると、理由はほぼ2つに集約されます。1つはSPTに来なくなった患者さん。もう1つは、もともと再生療法の適応ではなく本来は抜歯すべきだった歯に、あえて再生療法を行った場合です。

逆に言えば、適応を守り、SPTに通い続けている患者さんの歯は10年以上もっています。文献が挙げる因子と、私の実感は一致しています。

残存ポケットが5mm以上あったら

術後の再評価で5mm以上のポケットが残っていても、私はすぐには再手術しません。SPTで経過を見て、メインテナンスの中で悪化してくるようなら再介入します。理由は、術後1年の数字だけで再手術を決めると患者さんの負担が大きすぎること、そしてSPTで安定する症例が実際にあることです。ただし「悪化したら介入する」と最初から決めておくことが前提で、漫然と見ているのとは違います。

材料の組み合わせ

現在は、ほぼすべての症例でEMD+異種骨(Bio-Oss)+コラーゲン膜(Bio-Gide)の組み合わせにしています。文献上もEMDに骨補填材を加えることでアタッチメント獲得がわずかに増える(Lee & Jeong 2024で+0.6mm)ことが示されていますし、EFPの2020年ガイドラインも「EMDまたは膜に、骨由来補填材の併用の有無を問わず」としています。例外は、骨補填材が入らないほど狭い根分岐部病変で、その場合はEMD単独です。

ただし付け加えると、Cortellini(2022)のM-MIST 10年追跡では、材料を入れても入れなくても10年後の成績に差がありませんでした。狭い欠損を小さなフラップで扱える症例では、材料より創の安定のほうが効いている可能性があります。

患者さんへの説明

「何年もちますか」と聞かれたら、私はこう答えています。何年もつかは、メインテナンスとホームケアで大きく変わります。個人差が大きいので、何年と明言はできません。ただ、手術をすれば今より状況は良くなりますし、20年の追跡研究では手術をした歯としなかった歯で残存率に差が出ています。だから、やったほうがいい、と。

これは営業トークではなく、10年までの文献と、私自身の症例の実感を、そのまま言葉にしたものです。

まとめ

  • EMDの長期データは10年まで。「1年で得た改善はほぼ維持される」が根拠をもって言える範囲
  • 20年データはGTRのもので、再生療法群の喪失0本 vs フラップ単独2本
  • 失敗因子は喫煙・プラーク・SPT不参加・術後残存ポケット。適応外の歯に無理をした場合も
  • 残存ポケット5mm以上はSPTで見て、悪化したら再介入
  • 患者説明は「何年とは言えないが、今より良くなり、残存率が上がる」で十分

参考文献:Sculean A et al. J Clin Periodontol 2008;35:817-824(PMID 18647201)/Petsos H et al. J Clin Med 2022;11:543(PMID 35159996)/De Ry SP et al. J Periodontol 2022;93:548-559(PMID 34258767)/Bröseler F et al. J Clin Periodontol 2017;44:520-529(PMID 28303584)/Cortellini P et al. J Clin Periodontol 2017;44:58-66/Rattanasuwan K et al. Odontology 2017;105:191-201(PMID 27193491)/Lee JH, Jeong SN. BMC Oral Health 2024;24:34(PMID 38184515)/Cortellini P et al. J Clin Periodontol 2022;49:528-536(PMID 35415940)/Sanz M et al. EFP S3 guideline. J Clin Periodontol 2020;47(S22):4-60

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この記事を書いた人

歯周病専門医(日本歯周病学会認定・2014年)。明海大学歯学部卒業後、同大学歯周病学分野で臨床・教育に携わり、2019年に米国NSU歯周病学レジデントプログラムで研修。現在は福嶋歯科医院(東京都多摩市)院長・医療法人社団Fortune Arch理事長として、歯周外科とインプラント治療を専門に、これまでに1,000例を超える外科症例を手がける。歯科医師には「手を動かして身につける」臨床技術を、患者さんには歯周病を防ぐセルフケアを発信している。

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